あやしい飲み会

映画の影響で、女の子と話をしたいなと思っていた矢先、合コンに誘われたので行く事にした。

うどんと卵かけご飯を食べ終わった直後でグロッキーな上にズボンのボタンが閉まらなかったがそこはご愛嬌だ。

お店ではなく、五反田のおしゃれなレンタルスペースでおこなわれるとの事だった。

オールバックにはまっているので、髪をビッシリ整えてウッキウキで山手線に飛び乗った。

電車の中で、近くにいる女の子たちを眺めながら、誰か一緒の目的地はいないかと妄想していた。

五反田に到着し、迷いながらも目的のビルを見つけると、僕は不安になった。

怪しい。こんな寂れたビルの中におしゃれなレンタルスペースなどあるはずがない。

不安を募らせながらもエレベーターで最上階へ。

そこで、僕を招待してくれた男が出迎えてくれた。

扉を開けるとヒドイ空間だった。

乱雑に置かれた料理や飲み物に群がるいけ好かない男女。

薄汚れたソファーに土足で歩き回る室内。

僕は以前、マルチビジネスの勧誘で、マンションの一室に連れ込まれた経験を思い出していた。

あの時と同じだ。

今すぐにでも帰りたかった。

お金を用意していないから降ろしてくると言って逃げようとしたが、ろれつが回らず五千円支払ってしまった。

ソファはいっぱいだったので、奥の丸椅子に座らされた。

ビールは吐きそうだったので、レモンサワーで適当に乾杯しやけになった。

レモンサワーを一気に飲み干すと、ウィスキーをロックで飲み始める。

飲む飲む飲む。

周りの話を適当に流しながらウィスキーをずっとロックで飲んでいた。

見かねた主催者が、僕をソファー席に無理やりねじ込んだ。

そこでも「てあしが、ぷるぷるしびれてる」とか言いながらひたすら酒を飲んでいた。

隣に座る高級スーツにピアスをつけた頭の悪そうな男が「仕事なにやってるんですか?」とドヤ顔で聞いてくるのがうっとおしくて、でも無職ですとは言いたくなかったので、「社長さんを占ったりしてる」とか言ってたら誰も寄り付かなくなっていた。

オールバックに黒スーツ。おまけに目つきが悪いときたもんだ。どうやら本気にされたらしい。

一人になった僕はグラスに残った溶けかけの氷を指でかき混ぜていた。

いつの間にか隣の男はイケメンに代わり、僕と同じようにウィスキーを飲んでいた。

なんとなく気になり年齢を聞いて見ると同い年だ。

しかも、大学時代に映画を撮っていたらしい。

ここで僕は初めて人に興味を持った。

彼とは映画業界の事や僕の夢の話を熱く語り合った。

楽しい、楽しい。

気がつくと、肩を組んで彼の家に行っていた。

その後僕らはウィスキーにやられ朝になっていた。

彼はトイレで戻しまくっていた。

お互いにグロッキーだったので、横になりながら女について、ゲームについて、映画、本、社会、人間について語り合った。

いくら語っても話題がつきそうになかったので、僕はキリのいいところで帰宅する事にした。

ここまで趣味があう人と話をするのは久しぶりだ。

普段ならその場のノリでオサラバしてしまうのだが、彼とはもう一度会いたいと思っている。

気分がよくて、具合が悪かったので、中目黒まで桜を見ながら歩く事にした。

親子連れに中目黒はどちらですか?と尋ねると子供を抱きかかえて目も合わせずに小走りで走り去って行った。