一瞬の180分

昼頃から脚本セミナーの説明会に行く予定だったが、昨日ワインを飲みすぎてだるかったので休んでしまった。

 

夕方、歌舞伎町のマジックバーに行く事になった。

目の前でマジックを披露してくれるバーなのだ。(三千五百円90分飲み放題)

テレビ以外でマジックを見るのは初めてで、とても緊張していた。

いざマジックバーに入店した途端、店員が大声で出迎えてくれた。

この時点で帰りたくなった。

席はステージの目の前で一番良い席だったが、正直後ろの隅っこの方で静かに見たい気持ちもあった。

席では多様なマジシャンが代わる代わる目の前でマジックを披露してくれるのだが、この時点でもうすごい。ぞわぞわした。すごすぎて気持ち悪かった。どう見ても触れていないトランプがヒゲから出てくるし手に確実に握っていたはずのコインが増えているし訳がわからない。

そして目玉であるステージでの大型ショーが始まった。

まずは店長が鳩を出したり椅子を浮かせたり。

この時点でもう興奮はマックスだった。

続いて、紙を燃やして食べる男や、塚地似の方がグレイテストショーマンの曲に合わせて顔芸したりととても盛り上がった。

もはやマジックをしていなかったがそんなことはどうでもよかった。

熱狂冷めぬまま、あっという間にショーは終わった。

残りの時間も代わる代わるマジシャンの方が席にきてくれて最後まで楽しんだ。

一瞬の90分だった。

 

興奮の冷めない僕は映画を見に行くことにした。

テアトル新宿で上映されていた「新宿タイガー」がちょうど良い時間だった。

前情報はまったくなく、新宿タイガーという新宿の名物人を追ったドキュメンタリー映画という事だけ。

こういった映画を劇場で見るのは初めてだ。

たぶん興奮していなかったら見ないジャンルだったかもしれない。

新宿タイガーはタイガーマスクの仮面をつけて、ド派手な格好で新宿の街を練り歩く男である。

なぜ男が新宿タイガーになったのか、その理由はただ「直感」の一言に尽きる。

だがその直感で男は40年以上新宿タイガーをしているのである。

彼の生き様はかっこいい。

お金なんていらない。シネマ・ロマン・美女がいればそれでいい。

シネマを見る顔はニコニコと純粋に物語を楽しんでいて、

ロマンを語る彼の目は少年のようにキラキラとしていて、

美女と戯れる彼はスケベで優しかった。

彼の周りには人として真っ当な、心が豊かな人が集まっているように見えた。

劇中で彼を語る一人の女性の発言が胸に突き刺さる。

「子供が新宿タイガーを指差して「あの人なに?」と親に聞いた時、親は「見ちゃいけません」と言った。でもそれは間違ってると思った。人の生き方は自由だ。新宿タイガーのように生きている人だっている。だからその子供に、見ちゃいけないものじゃないんだよと教えてあげたくて、「タイガー!」と呼びかけた」

 

僕もタイガーと呼ぶ方の人間になりたいと思う。

90分の映画は一瞬だった。