あゝ、荒野 後編

昨日に続き、あゝ、荒野 後半を見た。

後半も素晴らしい映画だった。

菅田将暉の体が仕上がっていたのも良い。

前半が再起、起動の物語だとすると、後半は達成からの全てを失う物語だ。

 

ラスボスだと思っていた山田裕貴演じる裕二が割とアッサリとやられてしまうのだが、負けた後にスンナリと立ち上がり退場するサマ、妻や自分が傷つけた人に対して涙を見せる姿から、わざと負けたのでは?と思った。

試合シーンに文句はなく、むしろ全編通して最高の試合だったと言える。

それだけに、裕二にはもっとギリギリまで粘って欲しかった。

いや、死んでほしかったかもしれない。

 

菅田将暉演じる主人公・新宿シンジは、決して少年漫画に登場するようなヒーローではない。

試合相手が強いとわかれば相手の足を踏みつけて逃げられない様にしたり、無駄に挑発したり、ギリギリ反則を繰り返して致命傷を与える。

そして弱った相手を容赦なくボコボコにするのだ。

シンジははじめての試合前に「より相手を憎んだ奴が勝つ」「リングの上なら殺しても構わない」と言っている。

つまり、シンジはボクシングをしようとしているのではなく、あくまでも憎い相手を殺そうとしているのだ。

この生き様が何よりもカッコいい。

たかだかボクシングを始めた程度で人は変わらない。

シンジは最後まで自分の信念を貫いていく。

 

そしてもう一人の主人公。吃音に悩む兄貴ことヤンイクチュン演じるバリカン健二。(ヤンイクチュンが息もできないの人だと知った時は驚いた。痰を吐くシーンが脳裏に焼き付いて気持ち悪い)

ボクシングのセンスはあるものの心が弱く、前半では初戦で惨めな敗北をして終わる。

しかし後半、シンジの圧倒的な熱量に感化され、やがてシンジと戦うためにべつのジムへ通い出す。

裕二を倒しもぬけの殻になっていたシンジに対し、メキメキと力をつけていく健二。

そしてついに、最後の試合で二人は戦う。

これまでの試合シーンに比べると、やや迫力に欠けるが、シンジは初めて卑怯な手を使わずに試合をする。

さらに、これまで入り組んでいた登場人物達が、最後の試合会場に会するのもぞわぞわした。

健二の猛攻に推されるシンジだが、意識を半分失いながらも戦い続け、やがて勝利する。

吃音で人と繋がる事を恐れていた健二は、そこで初めて人と繋がる事を実感する。

最後には、健二は死亡?したかのような描写があるのだが、シンジはきっと健二を憎んでも殺す気もなかったはずだ。

だから僕の見解としては、健二は生きていると信じたい。

最後にはゴングが鳴り響き幕切れとなるのだが、この音が胸に響いて鳴り止まない。

今夜も眠れそうにない。

兎にも角にも、良い映画だった。